ワールドエンブリオ World Embryo ① 森山大輔

東京特許許可局局長今日許可かっきゃ……うう……。東京特許許可局局長今日許可かっきゃ……」
「何を言っている?」
「……何って、早口言葉ですよ」
「そうか。『かっきゃ』って何だ?」
「どうしても言えないのです……あんまりバカにすると、さすがの私も怒りますよ?」
「もう怒ってるだろ」
「そうでもないです。で、京くんは何をしているのですか?」
「漫画読んでる。見て分からない? もちろん、この形式を取っている以上仕方ないのは分かるけどさ」
「なんていう漫画でしょう?」
「『ワールドエンブリオ』だ。それの一巻を読み返しているところ」
「ふーむ、聞いたことないタイトルですね。どんな漫画なんです?」
「いわゆる『能力バトル』モノだ。『刃旗(じんき)使い』と呼ばれる人間の勢力と、『棺守(かんしゅ)』と呼ばれるヒトに寄生する怪物たちの戦いを描いた作品。『柩守』の設定や様態は『遊星からの物体X』や『寄生獣』なんかの敵役に近いものがあるが、大きな違いは一つ。携帯電話を媒体としている点だ」
「携帯電話ですか? う〜ん、確か『屍姫』でも似たような話がありませんでしたっけ」
「あっちのとはかなり違う気がするが……。まあ、携帯電話による感染、って言うのはそれなりに使われた設定ではある。問題は主人公の立場だな」
「と言うと?」
「分類すれば『巻き込まれ型』に当たる主人公、天音陸は居なくなった女性・天音の足跡を求めて訪れた廃病院で、旧友・武部洋平と出会う。そして現れる怪物、『棺守』たち。『刃旗』を用いて怪物たちと戦い出す武部とその相棒・有栖川レナ。
 はい。ここまででは陸は紛れも無く『巻き込まれ型』だ。彼自身には力もなく、戦う理由も無い。こういった場合、次に行われる工程は何か」
「それは、力を身に付けたり、理由を見つけたりする、とか?」
「その通り。いわば『必要手続き』だな。陸は戦いの中、『繭』を見つける。中から出てきたのはもちろん、ヒロインだ」
「ここへ来て『ボーイ・ミーツ・ガール』ですか」
「うん。ヒロインはもちろん、表紙に描かれてる少女だ」
「……幼女ですね」
「正確には、幼女だ。絶世の美女でも寡黙な美少女でも戦う女戦士でもなく、幼女だ。幼女と言うより、初登場時ではまだ赤ん坊と言ってもいい」
「それはまた、意表を突いてきますね」
「探せばありそうな設定だけどな。俺の知っている作品で例えれば『寄生獣』だ。ミギーは姿こそ右手だったが、登場時は知能も幼いものだった」
「もしかして、寄生生物のように成長していくのですか? ヒロインさんが」
「そうなる。身体的な成長は非常に顕著だ。ヒロインの成長、ってのはこの作品の魅力の一つだろうな」
「精神的とか、技術的な成長を描いた作品は多いですが、身体的ってのは変わってますね」
「『鋼の錬金術師』の主人公・エドワードも終盤に差し掛かった辺りで身体的な成長が見られた。もちろんこの『ワールドエンブリオ』よりはるかに長い時間を、作中においても現実世界においてもかかっているけどな」
「短時間で成長を楽しめる。育成ゲーム的な面白さがある、と言うわけですか」
「その通り。そしてこのヒロインの存在が、主人公の戦う理由に、さらには力になりうる」
「理由は分かりますが、力ですか?」
「まあその辺は読んでみれば分かる。ここがさっき言及した『主人公の立場』に関わってくるんだが……。
 さて、まとめる。『ワールドエンブリオ』の見所は一巻時点では主に二つ。一つは既に挙げた『ヒロインの成長』。最終的にどんな美女になるのか楽しみにしてく欲しい」
「見たところ二巻までしか持ってらっしゃらないじゃないですか」
「……まああくまで予測だ、予測。実際にどうなるかは責任持てないぞ
 二つ目は『戦闘シーン』だ。なかなか迫力の有るバトルが描かれている。今のところ『能力バトル』というほど戦術が練られていたり多様な能力が登場しているわけではないが、刃物を使った戦闘が好きな人には薦められるな」
「さあ、二巻以降も買ってきてくれますか?」
「……古都、読むのか?」
「読みます。私は読むの速いですから、できるだけ急いで買ってきてくれれば嬉しいですよ」
「……分かった。……強引な女め」
「何か言いましたか?」
「言ってないよ。独り言だ」
「言ってるじゃないですか、独り言」
「独り言はノーカン。早口言葉と一緒さ」

ワールドエンブリオ 1 (ヤングキングコミックス)

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