未来日記 えすのサカエ

「今日の議題は『ヤンデレとは何か』です」
「……議題って何さ」
「議題は議題です。さて、京君は『ヤンデレ』と聞いてまずどんなことを思い浮かべますか?」
「そりゃ、関わりたくないな、とかだろ……」
「そういうことを聞いてるんじゃあありませんよ。人物を挙げてみてください、という意味です」
「う〜ん……大体まず『ヤンデレ』という言葉をしっかり定義して欲しいな」
「京君なりの定義で構いませんよ」
「そうだな。とりあえず暫定的に『殺しちゃうほど愛しちゃう、愛の形を持つ人物』を『ヤンデレ』と名付けよう」
「……なんか違うような気もしますが、私もほぼ同じ意味合いで捉えていますね」
「では早速『人物』だな。まず、アメリカの連続殺人犯でありカニバリストである……」
「……待ってくださいます?」
「なんだ?」
カニバリストって『殺しちゃうほど』どころか食べちゃってるじゃないですか。それは『ヤンデレ』じゃなくてただの猛烈な変態さんです」
「まあそうだな」
「……あのですね」
「ともかく、さっきの定義じゃダメ、ということだな。何か客観的な情報はないのか? ヤンデレを定義するための」
「えっと……ちょっと待ってくださいよ……ありました。wikipedia様によると、ヤンデレとは『広義では精神的に病んだ状態にありつつ他のキャラクターに愛情を表現する様子をいう』だそうです。別に『殺しちゃうほど』じゃなくてもかまわないみたいですね」
「そんなもんかね。つまり『撲殺天使 ドクロちゃん』のヒロイン:ドクロちゃんは『ヤンデレ』でなく、世界各地に生息するのストーカーさんは『ヤンデレ』というわけだ」
「そうなっちゃいますね……ストーカーさんが全部が全部精神を病んでるとは限りませんけれど」
ドクロちゃんは笑顔で殺すからセーフなんだな」
「……笑顔でも病んでる人はいますよ」

《笑顔で殺す「愛」》

「そんなこんなで前フリは終わり。本題の『未来日記』に関しての話題だ」
未来日記』の作者さんはこの間話題になった『花子と寓話のテラー』と同じえすのサカエ先生ですね」
「ちょっと変わったデフォルメが持ち味の作家さんだ。暗い、ホラー的描写が特に上手い」
「『未来日記』はミステリ的殺人バトル漫画、とでも分類できましょうか。ある日神様から『未来の出来事が分かる』能力を持った日記をもたらされた12人の『日記所有者』たちは、神を選ぶための殺人ゲーム、『12人が互いに殺しあい、生き残った者が新しい神となる』ゲームに参加させられます。気弱で情けない根暗主人公・天野雪輝(あまの ゆきてる)君は、果たして殺人ゲームを生き抜くことができるのでしょうか? ……といった内容の作品です」
「『気弱で情けない根暗』は言いすぎだろ」
「事実ですし」
「……雪輝は最初こそ情けないが、物語が進むにつれて少しずつ成長していく。そこも見どころの一つだ。……その成長が、何か狂った考え方を基盤としているとしてもな」
「『未来日記』は雪輝君の成長ストーリーであるとともに、ヒロイン・我妻由乃(がさい ゆの)さんとのラブストーリーでもあります」
由乃は雪輝をとにかく愛す。絶望的なまでに愛す。ある意味で『究極の純愛』と呼べなくもないほどの愛だ」
「いわゆる『ヤンデレ』といったらこの人、というレベルまでヤンデレとしての知名度は高いですね」
「ああ。だが、たかが『愛』ごときであそこまでのことができるんだろうか?」
「たかが、とはお言葉ですね。愛は何物にも負けない強い力をくれるんですよ。……まさか京君は『愛』という感情をまだ理解していないのですか? その年になって」
「その年にって、俺はまだまだヤングだ」
「『ヤング』なんて死語がポンと出てくる時点でオバサンですよ」
「……オバサン言うな。ともかく、俺にはわからん。『愛』以外の理由が由乃にはあるんじゃないのか、と何度も思ってしまう。由乃未来日記は対雪輝戦では最強だが、それ以外との戦いでは近くに雪輝がいないと無力。つまり、由乃は雪輝と組むことでお互いの日記の弱点を補完しつつ、最終的に雪輝を殺して神になろうとしている……なんていう考えはどうだ?」
由乃さんが雪輝君を死んでも守ろうとするのは、雪輝君が死ぬことイコール自分の日記の無力化、だから……なんだかロマンチック度が限りなく0に近づきましたね……」
「ともかく、そんな読み方もできる、ということだ。まだ連載中だから、どんな結末を迎えるのかは誰にもわからん。えすのサカエ先生を除いてな」
「現在は単行本の10巻まで発売中。外伝の『モザイク』と『パラドックス』も読んでおくと作品の理解が深まると思いますよ」
ユピテルとユーノのお話、おススメしたいのはこんな人だ。ダークでスプラッタな漫画を読んでみようと思っている、またはいわゆる『ヤンデレ』キャラクターが大好きだ、なんて人や、ちょっとした頭を使ったバトルが見たい、という人」
「アニメ化もされるそうですし、ファンも増えるでしょうね」
「ファンになった人たちには『花子と寓話のテラー』も読んでもらいたいな。俺としてはむしろ、あちらのほうが好きだ」
「両作品ともいい味出してますけどね」
「同意しよう」
「……そんなことより、先ほどの話です。『愛』が理解できないというのなら、私が教えて差し上げましょうか?」
「そんな風に上目づかいで言ってもお断りだ、古都」
「ダメですかぁ?」
「甘えた声を出すな。何度も言うように、そういうのは男にやるもんであって……」
「またまた、照れてるんですね分かってますとも私は」
「……どうやって追い出そうかこの女」

未来日記 (1) (角川コミックス・エース (KCA129-5))

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