イントロ

「なあ」
「なんでしょう?」
「なんでしょう、じゃない。お前はなんだ。どうして俺の部屋にいる」
「どうしってって……ああ、目玉焼きが焼けましたよ。ご飯ももう炊けてます。朝食にしましょう」
「意味が分からない……お前とは一切面識ないよな? あったか?」
「私は初対面ですね。一応自己紹介しましょうか?」
「ああ、早く名乗れ」

 私はいまだ寝ぼけているのだろうか? 確かに朝には弱い性質だが、部屋に見知らぬ女がいるなどという夢はみたことがない。

「私は私です。『名前』を探しに来ました」
「名前を? どういうことだ」
「どういうことかはわかりません。ただ、私には『名前』が必要で、あなたの近くに居ればそれが手に入るはずです」
「……」

 女の言っていることは、全く要領を得なかった。
 やはり夢の途中か。しかし、この明らかな現実感は、夢の中のそれではない。

「それで、つまりお前は何がしたいんだ」
「この部屋に、居候を」
「居候? 確かに多少のスペースはあるが、見ず知らずのものを居候させるほど、俺の度量は深くは無いぞ」
「はい、仰るとおりです。家事全般は得意ですし、もちろん家賃はお支払いします」
「……金はあるのか?」
「ええ、祖父から頂いてきました。貯金もありますし」
「その、祖父とやらに自分の名前を聞けば、それだけで済むじゃないか」
「いいえ。それができなかったから、私はここに居るのです」
「そんなことがあるか。孫の名前を知らない爺がいるかよ」
「親類には聞いて回りましたし、もちろん友人にもたずねました。しかし、誰も知らないのです。私の『名前』を」

 女が狂っているのか、それとも私が狂っているのか。
 問答無用、と断るのが一般的なのだろうが、私にはできなかった。女の目はどこまでも真剣で、迫力がこもっており、普段から意思の弱い私にはなんとも言い返せなかったのだ。

「居候、よろしいでしょうか?」

 女は私の目をしっかと見つめていた。
 今となっては何故だが分からないが、その真っ黒な鉱石のような瞳に見つめられた時、私はこの女の要求をのむことに決めていた。
 意思の弱い私が、こんなにも確信を持って決断したのは、後にも先にもこの一回のみだろう。そう思った。

「分かった。しかし、もう少しお前のことを聞かせてくれ。埒が明かない」
「ああ。ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」

 女は初めて笑った。ふわりと笑った。
 こうして、私たちのいわゆる「ルームシェア」生活は突然始まったのだった。



 初めまして。ガダジでございます。このブログは(よく分からない書き出しをしておりますが)「本の紹介・感想」を書くことを目的として開設いたしました。それを「私(次回『名前』を出します)」と「女(同様に次回仮名をつけます)」を語り手として記述していきます。
 分野はミステリや戦記もの、ファンタジー、エッセイ、なんでもござれといった感じで、多岐にわたる予定です。

 更新頻度は高くないでしょうけれど、見ていただければ幸いです。